オプション理論解説 (3)

ベガ

登場人物:
ご隠居 (ついに神様の所に来ちゃった)
神様 (相変わらず当然全知全能の神)

神:「おお、ご隠居、良く来た、待ってたゾヨ!一杯やろうか?」

隠:「待ってたなんてとんでもない。でも、こっちで良かった。三途の川での”過去の言動チェック”では一瞬ビビリましたからねぇ。」

神:「ところで、下界では最近オプションが少しずつ流行りはじめてるそうじゃないか、理論とか皆解ってんのかなぁ?」

隠:「いやぁ、それがトーシロー連中は結構テキトーですな。この間も八と話したんですが、デルタを理解するのが精一杯でした。」

神:「サルもガンマあたりまでかな。まあ、八よりはマシかな。」

隠:「でも殆どの人はボラティリティって言ってもピンと来ないからベガはちょっとねぇ。実はあっしもちょっと不安で。」

神:「そうか、ではここに来た記念に一杯やりながらベガの事でも話してやろう。」

隠:「ありがてぇ、お願いします。」

神:「それでは特別じゃぞ。今まではボラティリティが一定で、しかも事前に解っているとして話を進めてきたが、実際はそうではないんだな。ボラティリティのの予測を間違えるとオプションの実際のヘッジコストは予測されたヘッジコストと違ってくるのだ。だから、オプションを管理する場合はボラティリティに対するリスクもちゃんと管理する必要があるのだ。
ボラティリティの変化に対応してプレミアムがどう変化するかを表した物がベガなのだ。ベガはATMの時が一番大きく、OTM、ITM になるに従って減少するのだ。これはガンマがATMの時に最大になるからである。」

隠:「なるほど、ガンマが大きい時に実際のボラティリティが予想より大きいという事は、デルタが予想以上に大きく変化することになるから、ヘッジコストも予想以上に大きくなる事になるんですな。」

神:「そのとおり。事実、ボラティリティの予測を間違えるという事はデルタ自体が間違っているという事なのだ。それは、デルタとはオプションがITMに終わる確率だという事を考えればすぐにわかるだろう。つまり、その確率自体が本当の確率とは違うという事じゃ。
話をもう一歩進めると、ガンマが大きいときだけではなく、ガンマ自体が不安定な場合も注意しなければならないのだ。例えば、短期のディープITMやディープOTMのオプションはデルタが100%、あるいはゼロに近く、ガンマも非常に小さい。つまり、失効日までの時間的距離が短いから、失効時における為替レートが現在のレートから大きく離れる可能性が小さい。従って、為替レートが少し動いてもオプションがITMに終わる確率は殆ど変化しないのだ。しかし、予想に反して為替レートが大きく、しかも逆に変化したとしたらどうする。ITMのオプションはデルタが100%からゼロに、OTMのオプションはゼロから100%に急激に変化するだろう。この事を考えるとボラティリティのヘッジが如何に大切か良く解る。
これ以外にも再投資利子率のリスク、スワップレートのリスク管理も必要なのだ。実際にオプションを売買するには、既存のモデル、あるいはコンピューターモデルに頼るだけではなく、オプションという物を色々な角度から見て、各自が理解することが大切なのじゃ。 」

隠:「お陰様でこれでオプションの概念が随分ハッキリしてきました。これまでオプションの最終的なペイオフだけを分析してきたので、オプションがどういうものか身をもって理解するのが難しかったけど、これでオプションの本質が大体解りました。ますますオプションが面白く思えてきました。」

神:「これまでの話はオプションの概念を大雑把にとらえただけで、まだまだ研究することはたくさんあるのじゃ。例えばボラティリティをとっても、利子率にタームストラクチャーが有るようにボラティリティにもタームストラクチャーが有るし、ボラティリティのヘッジにも色々有るのじゃ。
また、ボラティリティから一歩進めて、対象証券の価格の確率分布の仮定自体も、いろいろな確率分布を検討する必要が有るのだ。また、今までの最も基本的な オプション以外にノックインやノックアウトなどのエキゾチックオプションが有るしなぁ。
実際の市場でオプションを取り引きするには、単に高度な理論に頼るだけではなくて、実際にヘッジがどう効くかとかを、常に直感的に、現物や先物市場と関連させて分析する事が大切なのだ。そうしないと理論だけに振り回される事になりかねんな。
オプションは理論と市場での経験が上手く統合されて初めて理解できるものだし、リスクも少なくなるモノなのだ。 」

隠:「いやあ、いろいろためになるお話ありがとうございました。ささ、一杯!」

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